第15回
02/12/27号
祝・マスターアップ! しかしその背景
に隠された、壮絶な修羅場とは……?
 終わったよ。終わりましたよ。ええ終わりましたとも。ここ数ヶ月、私の心身を締め上げていた重い軛から、やっと解放されました! おめでとう俺! ありがとう俺! ビバ、マスターアップ!

 という訳で、この号が出ている頃には、「ラチェット & クランク」(発売中)を既に手に入れた方もいらっしゃるのでしょうが、原稿を書いている今日現在はまだ発売前で、やっと見本盤が出来上がってきたばかりだったりします。
届いたばかりのパッケージを開けると、焼き立てホヤホヤのDVD-ROMからは、まだホンノリと暖かみすら感じられ、なんとも愛おしい事この上なし。まさにこれが、俺達の滝汗と激涙と脳汁の結晶! 思わずパッケージを「勝訴」ばりに高々と掲げ、オフィス中を駆け回りたくなります。
「やりましたッ! 勝ちましたッ!」
――気付いたらホントに叫びながら駆け回っていた私です。普段だったらアレを呼ばれかねない所ですが、今に限っては、完成直後のごく一般的な振る舞いの範疇なので、みんな生暖かい目で見守ってくれてます。ああ、マスターアップって素晴らしい! もう、こんな生活しなくて済むんだ!

*  *  *

「こんな生活」とは?
――私は'96年以降ずっと、アメリカの制作会社と一緒に仕事をしているため、必然的にアメリカ出張が多くなる訳ですが、あらためてパスポートに押された判子を見返してみると、2泊4日の超短期出張の、なんと多いことか!

 例えばこんな具合です――泊まり続きの会社から、自宅に戻らず成田空港に向かいます。ノートパソコンをデイパックに詰め、ひどい時にはサンダル履きのそのままで。
すると、時差のためにアメリカに着くのも同日の朝。ホテルに向かわずに、そのままレンタカーで制作会社に直行します。そしてひたすら、チェックと指示を繰り返し、夕方頃にROMが焼けた時点でホテルにチェックイン。売店が開いてれば、そこで下着や靴下を入手できるのですが、大概は閉店後の深夜になってしまうので、泣く泣くバスルームで洗う羽目になります。はあ、今日も一日ツラかった――しかしそこで仕事が終わりではなく、ここからが私の本番なのです!

 部屋に入ったら、まず備え付けのTVセットの裏からアンテナ腺を外します。たいていプラスティックでカバーされているので、持参の糸ノコとニッパーでぶち壊します。もう手慣れたもんです(常習犯?)。そこにアメリカ仕様のRFモデュレータとデバッグ用プレイステーションPSを繋いだら、寝ずのチェックの始まりです。途中でノートパソコンを電話回線に繋ぎ、日本のデバッグ情報をダウンロードしたり、メールの返事を書いたりもしつつ、チェック、チェック、チェック…。あ、もちろん下着と靴下はバスルームで洗っておいてありますよ(という事は…?)。
もしここで問題が起きなければ、翌朝の便で東京に戻れるのですが、もし厄介なバグでも出ようものなら、飛行機を変更して、翌日も同じ事の繰り返し。

――頼むよバグよ出ないでくれ!

結論:こんな生活していれば、確かにマスターアップも嬉しかろう

*  *  *

 社内をひとしきり駆け回って疲れた後は、今度は見本盤を送る(贈る)という仕事が待っています。私はそれを「幸せ配達」と称していますが、社内で共に制作に関わった一人一人に手渡しして喜びを分かち合うのは勿論の事、声優さん全員に贈ったり、話題にしてくれそうな業界関係者や取引先に送りつけたり、そして余った部分をゲーム業界の古い友人達に送るという次第です。「俺は元気でやってるよ。こんなに満足いく仕事が出来たよ」という秘めたるメッセージを込めて。

ちなみに、今まで本連載で採り上げた大半の方には送ってます。送られてない方は、大至急連絡先を報せるように。また逆に言えば、見本盤は届いたのに採り上げられてないという方は、いずれ書きますので覚悟しとくように(にや)。

 こうして贈ったソフトに対して、後で感想が送られてくるのを読むのは、また格別です。律儀な人間は丁寧な礼状を添えてくれますし、もっと律儀な方は自分の関わった新作ソフトまで送ってくれます。こちらが催促した訳でもないのに! ああ、なんて善い人なんでしょう――

――石井さん「ブリンクス」ありがとうございます。Xbox持ってないけど、大事にしますね!(それじゃマズいだろう…)

――水口、「スペースチャンネル5」の1と2、どうもサンキュー! マイケル最高!

 それに比べて――「スイッチ」は、送られてくる気配すらありません。「ルーマニア」と一緒に送ってくれるつもりなんでしょうか牧野は。まあ、送られなくても全然気にしないんですが。

いえね、以前アリカの堀ちゃんに「ストリートファイターEXくれ!」と催促したんですよ。そうしたら、忘れた頃に送られてきたんです――「カードキャプターさくらテトリス」が。

まあ、何が送られてきてもありがたいんですが…でも…あまりと言えばあまりな仕打ち…。それ以来、催促するのは止めてます。確かに「テクニクビート」なんか送られてきたら大喜びなんですが…いやいや、催促なんてしてませんよ!

結論:ビバ、マスターアップ!
 また来年、同じ事するんだろうなあ…。

実はこの回、2度もボツ喰らっちゃったんだよねー。
マスターアップしたばかりで余裕があったから良かったんだけど、
これがもし、修羅場のトキだったらと思うと…ガクガクブルブル。

ところが後に、俺が〆切を勘違いしてて、まるまる1週早く原稿を送ってたコトが発覚!
そうかあ、それでウメちゃんは、平気な顔で書き直しを要求していたんだー。
ちきそー、ダマされたぜ。

ちなみに↑の原稿は、最終稿に2度目の原稿を加えたもの。
マスターアップ直後の嬉しさが表現されている名文と云えよう、うむ。

あ、そうそう。「テクニクビート」は、めがちんから戴きました。
「スイッチ」も、牧野から届きました。
この場を借りて、お礼申し上げます。


さてさて、こちらが問題の「ボツ」版。

編集長による、「書かれている内容に根拠が薄い」
「制作者自体がこんなの書くのは格好悪い」
という判断からボツにされたんだけど――

ちゃんと反論してみんかい!
カッコ悪いのを承知で書いてるんじゃ!

 読者の皆さん榎本さん、初めまして! 山村モヘップ(12)って言います。今回はモロモロの事情から、ボクが書くコトになっちゃいました。1回限りのツタナい代打ですがヨロシクお願いしますねっ!

 で、イキナリでゴメンナサイなんですけど、正直、ドリマガさんには失望しちゃいました。ってのは、前号での「ラチェット & クランク」レビューの話。

ドリマガのレビュー、評価軸が少な過ぎません? つうか、点が低すぎません?

 あのですね、ゲームのレビューを「批評」だとアナタ方が言い張るんなら、そこには多面的な評価軸が必要だと思うんですよ。ゲームシステムとかのルールに関わる部分はもちろんのこと、ゲーム世界のアートワーク/サウンド/プログラム/シナリオ/キャラクター/それら全てを束ねるコンセプトワーク、などなど全部。で、各々の要素について、技術的に洗練されているか/斬新か/時流に乗っているか、といった複合視点で採点すべきだと思うんです。

 今回のラチェットって、ヒイキ目でなく客観的に見て、芋吉さんが(じゃなくて「六百さんが」ですね(笑))過去に関わったどのゲームよりも、色んな面で良く出来てると思うんです。取っつきやすいルールも、AIを使ったヒント出しも、迷わせないマップデザインも、60fpsで描かれた緻密な世界も、プロロジックIIサウンドも、アニメーションも声もメカも爆発も、全てが「プレイしやすさ」と「快感」に特化した「匠の技」って感じ(新規性は足りないかも)。――でもそういう部分はレビューでほとんど無視されてる…。

小難しいコトは無視して、キャラの好き嫌いだけで点つけてるでしょう?

 そりゃあ、好き嫌いは大切ですよ。実際、あるセグメント性別年齢層で第一印象が悪い、というデータはあるそうです。でも、メインターゲット層であるボクら低年齢層にはウケが良いというデータもあるんですよ! なぜかっていうと、ボクらは新しいスタイルに寛容だから。寛容でないのは、アニメやマンガで育ちきってしまった大きなお友達ばかり。ストライクゾーン許容範囲が狭くなってしまった彼らが声高に「日本人向けでない」と叫んでいる姿はまるで、戦前の修身教育を受けた方々が「若者の乱れは目に余る」と新聞に投書してるみたいで、頭がコーチョク化しちゃってる。

 確かにね、バイヤーズガイド的な意味から言ったら、ドリマガ読者層に好かれるソフトをプッシュするのは間違っていないと思いますよ。でもね、ただでさえユーザーさんに「今」ウケている定型だけをなぞった「媚びた」コンテンツが氾濫してるワケじゃないですか。そんな中、ゲームとしての各要素を正当に評価して、進化や進歩を促すような視点が無い「お得意サマ商売」なレビューだけじゃ、いずれ先細りになっちゃいますよ。ゲーム市場的にも、ドリマガ販売数的にも。

*   *   *

 ――なんちゃって、ボクみたいな子供が好き勝手言ってすいません。ホントに

「私が悪うございました」

久々のモヘップ君の原稿は、日の目をみませんでした(泣)。
つうか、いまだに「12歳」って一体……。

ともあれ、これ以来ドリマガのレビューには注目してるんだけど、
はっきり云って「レベルが低いな」という印象は変わらない。
まあ、編集者が想定する読者レベル(実際の読者レベルではない)が低いのかもしれないし、
その場合は、俺がどうこう云える筋じゃないんだけどさ。連載を辞めるしかないだけで。

んでもって、この回のボツを契機に、
「じゃあ読者のレベルを試してやろうじゃないか」と、
Game Developers Conference原稿シリーズを始めるコトになったワケです、ハイ。


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